ぼくのヒーローR2 第13話 ごうよくなものたち


「もういい、ふたりとも やめてくれ」

血の気が引き、まるで幽鬼のように青ざめた顔で立ち尽くしていたユーフェミアの耳に、子供の声が聞こえてきた。それは、幼い男の子の声。

「いけません、お兄様」

続いて慌てるような小さな声。
ナナリーの声だろう。
そのナナリーが兄と呼んだ。

ユーフェミアは純真無垢な少女だった。
皇族でありながら、皇宮内に蔓延している悪意を徹底的に排除した無菌培養で育てられた結果なのだろう。先入観や常識など一切排除して、自分が感じた事、思った事を、あり得ないという言葉で切って捨てる事はせず、自分の感覚を信じて突き進む。そのため、誰もが気付かない事にも気付き、いとも容易く真実を引き当てる事が出来た。
だから、そこにいるのが死んだはずの妹・ナナリーだと気がついたし、こんな荒唐無稽な現象でさえ、彼女はあっさりと理解し、正解を導き出す。

「ルルーシュ?そこにルルーシュもいるのですね?でも、どうして小さな子供の声なのですか?もしかして、若返ってしまったのですか?」

僅かなヒントでそこまで導き出したユーフェミアに、思わずC.C.は舌打ちした。

「もういい、これいじょうは むだなあがきだ」
「お兄様・・・」
「だいじょうぶだよ、ななりー」

優しく髪を撫でる小さな手からは、全てを決断し答えを出したルルーシュの強い意志を感じ、兄が決めたのならそれに従おうとナナリーは腹をくくった。
そして、車いすをゆっくりと回転させる。
ルルーシュが決めたのだから仕方がないと、C.C.はナナリーに手を貸した。振り返ったナナリーの膝の上には、幼い男の子が座っており、ナナリーは離すものかという意思をこめてその体を抱いていた。
艶やかで柔らかそうな黒髪と、白くすべすべな肌、そして大きな紫色の瞳。愛らしい子供の姿は、異母兄の面影を強く残していた。

「な、なんて愛らしいのでしょう!こんなに可愛い子供は見た事がありません!」

そう言うが早いか、ユーフェミアはナナリーに駆け寄り、ナナリーがぎゅっと抱きしめている幼児に手を伸ばし、その顔に触れた。
ユーフェミアの瞳はキラキラと輝いており、ナナリーでさえもう視界に入っていない。
まるで天使のような愛らしさに、ユーフェミアはメロメロ(死語)になった。

「ルルーシュ、あなたはルルーシュですね?ああ、どうしてこんな可愛らしい姿になったのかしら?」

そう言いながら頭を撫でたり頬をつついたりと手は忙しく動く。

「えーと、ユフィ?」

思わぬ展開にスザクが声をかけるが、全く聞こえていないようだ。
一点集中すると完全に周りが見えなくなるタイプはこれだから扱いにくい。
ナナリーが抱きしめている事も忘れ、ルルーシュを抱きあげようとしたが、取られてなるものかとナナリーが離さないたため、ユーフェミアはようやくナナリーを見た。

「ナナリー、手を離してください」
「嫌です。お兄様は私のお兄様なんです」
「ルルーシュは私の兄でもあるんですよ?独り占めなんてずるいです!」
「私にはお兄様だけなんです、お兄様まで取らないでっ!」

あの大人しいナナリーが声を荒げて拒絶する姿に、スザクは意を決して動いた。それでも尚ルルーシュをと伸ばされたユーフェミアの手を遮るように、ルルーシュをナナリーごと抱きしめると、ユーフェミアの暴走で完全停止していたルルーシュの思考が戻ってきた。のろのろとスザクを見上げる瞳は明らかに動揺しており、あ、これは泣くかもしれないと判断したスザクは、ナナリーに声をかけた。

「ナナリー、ルルーシュは僕が預かるよ。大丈夫、ユフィには渡さないから」

ルルーシュの体から不安と怯えを感じていたナナリーは、しぶしぶではあるが了承した。足の動けない自分では兄を連れて逃げる事は出来ない。兄を腕に抱いたままでは、この異母姉と話合いも出来そうにない。
声の感じから、ユーフェミアとは対立関係にありそうなC.C.がいるのだし、ここは大丈夫だろう。いまは怯えてしまった兄を安全な場所へ。
ルルーシュの小さな体はナナリーの腕を離れ、スザクの腕の中に収まった。
独占欲の強いナナリーからスザクの、自分の騎士の手に渡ったと、ぱあっと笑顔を見せたユーフェミアは、スザクからルルーシュを貰おうと立ち上ったが、すぐにスザクとの間にC.C.が立ちふさがった。
その事に気づいているのかいないのか、スザクはさっさと部屋から立ち去った。
そして、部屋の中には独占欲の強い女が三人残された。

部屋を出たスザクは、一目散に駆けだし、ルルーシュの部屋へと飛び込んだ。扉が閉まった瞬間、ルルーシュはこらえきれずわんわんと泣き出した。

「うわぁぁ~すざく~っ!」
「怖かったんだね、もう大丈夫だよ」

君は僕が守るからね。と、独占欲の強い男は幼児の耳元でささやく。
祖の言葉に安心したのか、小さな手でスザクの服をぎゅっと握り、胸に顔をうずめるようにして堰を切ったかのように泣き続けた。「大丈夫、大丈夫だからね」とその背中を撫でながら扉の向こうを伺うが、人の気配は感じられなかった。
ここなら誰にも聞かれることなく、思う存分泣く事が出来るだろうと、スザクはほっと胸をなでおろし、ルルーシュを抱きしめたままベッドに腰掛けた。
イレギュラーに元々弱いルルーシュは、幼くなった事で更にイレギュラーに弱くなっていた。突然来た異母妹ユーフェミア、皇女でありエリア11副総督。黒の騎士団のゼロであるルルーシュの敵が、自分たちの生活空間に入ってきた。
絶対ではないが、それでも安心できる我が家に、敵が土足で侵入したのだ。
それだけでもパニックを起こしてはいたが、ナナリーに気づいた以上最悪ギアスで・・と考え身構えていたというのに、ユーフェミアは予想外の行動に出た。ルルーシュの愛らしさを目の当たりにし、突如豹変したユーフェミアの猪突猛進っぷりに心の底から恐怖し硬直したのだ。
しかも、自分を守ろうとするナナリーから、無理やり引き剥がそうとする。
自分が安心できる最愛のものから力づくで引き剥がされる。
幼い精神は、それだけで限界に達した。
そんな極限状態で頼りになる親友が自分を守ったのだ。
色々な感情が爆発してしまうのは仕方のないことだろう。

「な、ななりー、ななりーをっひっく、ううう、すざくっ」

ナナリーを護らないと。と、しゃくりあげながら言うので、大丈夫、C.C.がいるだろ?とスザクは泣く子をあやした。

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